Recurrent pregnancy loss
不育症とは
不育症とは、妊娠はするけれども、流産や死産を繰り返し、元気な赤ちゃんを得ることができない状態をいいます。既往流産2回の場合は反復流産、3回以上は習慣流産ともいわれています。妊娠初期に流産する原因の多くは赤ちゃん側、つまり受精卵の偶発的な染色体異常です。染色体異常による流産は年齢が高くなるほど多くなり、このことについては流産を治療したり予防したりするのは、難しいところです。しかし、なかには流産を繰り返すリスク因子を持っている可能性があり、きちんと検査をしておくことをお勧めします。
不育症の原因
リスク因子はさまざまなものがありますが、血液凝固因子異常、抗リン脂質抗体症候群、免疫着床障害、子宮形態異常、内分泌異常、夫婦どちらかの染色体異常などがあります。ただ、リスク因子があるからといって100%流産や死産に至るわけではありません。不育症と診断されても、そのうちの約8割の方はその後元気な赤ちゃんを出産されています。
不育症の検査・治療
血液凝固因子異常
プロテインSやプロテインCは、血液を固めようとする因子を不活性化させる作用があり、血液が固まるのを防いでいます。プロテインSやプロテインCが減少すると血液凝固が起こりやすくなり、血栓ができやすくなります。妊娠中はこれらの量が低下し、出産などの出血に際して血液を止めるように働くため、血が止まりやすい状態、すなわち血栓のできるリスクがより高くなってしまいます。また、血液凝固第Ⅻ因子は、血液凝固因子の一つで、欠乏するとプロテインS欠乏症などと同様に血液凝固が起こりやすくなります。
血液凝固異常が軽度であれば日常生活に何ら支障はありませんが、妊娠が成立した後で血栓が形成されてしまうと、胎盤の血管は細いため血液循環が悪くなり、流産の原因となってしまうことがあります。
血液凝固異常の治療法は、血液を固まりにくくするアスピリン療法やヘパリン療法があげられます。ヘパリン療法なども保険適用となったため、検査・治療も比較的安価にお受けいただくことが可能です。また、必要に応じて漢方療法やステロイド療法を併せて行います。
抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体は、膠原病などの病気の際や不育症の一部に認められる自己抗体で、リン脂質という細胞の膜などを構成する重要な成分を攻撃し、血管炎などを引き起こすことで血栓をできやすくしてしまう抗体です。
抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント(ループスAC)、などが知られているため、スクリーニング検査で測定しております。
治療法は、血液凝固異常同様、血栓の形成を抑制することであり、アスピリン療法、ヘパリン療法などを実施します。
免疫着床障害
NK細胞(ナチュラルキラー細胞)は、リンパ球の一種で、体内に侵入した異物を迅速かつ強力に傷害し、排除してしまう作用を持っています。異物が侵入したら排除してくれるNK細胞ではありますが、不育症の分野では「過剰防衛」を行ってしまうこともあります。
NK細胞の活性が高い場合、その活性を抑えてあげることが妊娠の維持には有利に働く場合があります。かといってNK細胞の働きを抑えることは、免疫の働きを抑えることになりますので、あまり強く免疫を抑制することは感染症のリスクを増大し、結果として流産の危険性も増大させることになりかねません。
当院では、免疫学的妊娠維持機序の異常の場合、ピシバニールを使用します。ピシバニールはがんの免疫療法に使用する薬であり、細菌の一部を処理したものが主成分となっています。このお薬は細胞性免疫を活性化し、妊娠の免疫学的維持機序を是正する方法になります。副作用には、局所の発赤・ 腫脹、発熱があります。
その他の因子
血液凝固異常や免疫着床障害の他にも、不育症の原因はさまざまなものがあり、大きく分けて、子宮の形態異常、内分泌異常、染色体異常などがあります。
お願い
不妊症と不育症、それぞれを切り分けて治療を行うことは大変困難です。特に高度生殖医療については、妊娠の成立・維持に医療の力が大きく影響を及ぼすため、不妊治療の情報がなければ、不育治療を行えません。そのため、提携医療機関以外の医療機関で不妊治療をお受けの方の不育治療は原則ご遠慮いただいております。また提携医療機関であっても、紹介状をご持参いただかなくては現状等が把握できませんのでご遠慮いただいております。
当院では、当院で治療をお受けになる方の願いを叶えるため、責任を持った医療を提供させていただきたいと考えております。この点については、ご理解とご協力をお願いいたします。